高齢者(65歳以上)の方の多くは年金受給者です。
年金受給者が交通事故にあい請求しうべき損害賠償額の算定では、年金に逸失利益性があるか否かが検討されます。
実務上、各種年金の逸失利益性については、最高裁が相次いで出した判決によってほぼ決着しています。
現在の争点は、それぞれの事案に応じて生活控除率をどの程度認めるかべきかに問題ですが、生計を営むにあたり、年金依存度が高い被害者ほど、生活控除率が高い傾向にあります。
年金受給者の逸失利益
年金等の受給者の逸失利益は、次のそれぞれに掲げる年間収入額又は年相当額から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数(別表II-1)を乗じて得られた額と、年金等から本人の生活費を控除した額に死亡時の年齢における平均余命年数のライプニッツ係数(別表II-2)から死亡時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数を差し引いた係数を乗じて得られた額とを合算して得られた額とする。ただし、生涯を通じて全年齢平均給与額(別表III)の年相当額を得られる蓋然性が認められない場合は、この限りでない。
年金等の受給者とは、各種年金及び恩給制度のうち原則として受給権者本人による拠出性のある年金等を現に受給していた者とし、無拠出性の福祉年金や遺族年金は含まない。
基礎収入の算出方法
1) 有職者
事故前1年間の収入額と年金等の額を合算した額と、死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額(別表IV)の年相当額のいずれか高い額とする。
2) 幼児・児童・生徒・学生・家事従事者
年金等の額と全年齢平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、58歳以上の者で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。
3) その他働く意思と能力を有する者
年金等の額と年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い額とする。ただし、年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を上回る場合は、全年齢平均給与額の年相当額と年金等の額のいずれか高い額とする。
(3) 生活費の立証が困難な場合、被扶養者がいるときは年間収入額又は年相当額から35%を、被扶養者がいないときは年間収入額又は年相当額から50%を生活費として控除する。
判例による各種年金の逸失利益性の判断基準
退職共済年金「退職年金を受給していた者が不法行為によって死亡した場合には、相続人は、加害者に対し、退職年金の受給者が生存していればその平均余命期間に受給することができた退職年金の現在額を同人の損害として、その賠償を認めることができる」と判示(最高裁平成5年3月24日)
老齢基礎年金
「損失補償ないし生活保障を与える事を目的とするものとともに、その収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められる」から、不法行為により死亡した者のあることのできる国民年金は、その逸失利益として相続印が相続によりこれを取得し、加害者に対してその賠償を請求し得る、と説示(最高裁平成5年9月21日)
障害基礎年金及び障害厚生年金
障害年金受給者の「相続人は、加害者に対し、障害年金の受給権者が生存していれば受給することができたと認められる障害年金の現在額を同人の損害として、その賠償を求めることができる」が、子および妻の加給分については、「拠出された保険料とのけん連関係がおるものとはいえず、社会報償的性格の強い給付であり、子の婚姻、養子縁組、配偶者の離婚など、本人の意思により決定し得る事由により加算の終了を予定することが予定されていて、その存続が確実なものということもできない」と述べ、各加給分については、年金の逸失利益を否定した(最高裁平成11年10月22日)
遺族厚生年金、遺族共済年金及び遺族基礎年金
「受給権者自身の生存中その生活を安定させる必要性を考慮して支給するものである」から、逸失利益性は認められない、と判示(最高裁平成12年11月14日)。遺族年金の過給分と遺族年金については逸失利益が否定されています。
裁判例で示された生活費控除率
平成12年以降の裁判例で示された生活控除率は、稼働収入がある場合にはそれに対する生活控除率は、男女を問わず、30〜40%が一般的で、就労期間経過後の生活控除率については、0〜80%まで広がりがあり60%を示す裁判例が多く、年金額全てが生活費に費消されてしまった事案においては、生活控除率が100%と判断される場合があることを示唆しています。
高齢者の家事労働の逸失利益
最高歳昭和50年7月8日判決によって、家事従事者の休業損害を認めたことにより、家事労働の逸失利益性は一般的に認めらていますが、高齢者の場合は必ず認められる訳ではありません。
実務上は、基本的には家事労働の中でも逸失利益として評価されうるのは、あくまでも他人(同居する家族等)のためにする労働であり、一人暮らしの方が自分の身の回りのことを行っても財産的価値のある労働とは評価されず、休業損害や逸失利益は認めらていない判例が大半です。
高齢者の家事労働の金銭的評価については、年齢等により一律に決するのではなく、家事労働を行う者の健康状態、世話をすべき家族の構成や人数、他に家事労働を行う者の有無、家事を行う時間や内容、家族の健康状態など、家庭における役割、家事労働の実態等を具体的に検討し、その評価を行う裁判例が多くみられます。
事故の因果関係や過失割合による減額
自賠責保険の支払基準では、高齢そのものによる減額はありませんが、事故原因と重大な過失がある場合に減額があります。
事故原因による減額は、事故と受傷、死亡、後遺障害との因果関係の有無の判断が難しい場合の損害については、積算した損害額が保険金額に満たない場合には積算した金額から、保険金額以上となる場合は保険金額から50%の減額を行っています。
過失割合による減額は、被害者に重大な過失(過失割合7割以上)があった場合は一定の割合で減額されます。過失の割合については、最終的には裁判所の判断によりますが、実務上は任意保険会社の基準である「民事交通訴訟による過失相殺率の認定基準」や、裁判(弁護士)基準である「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準(通称赤い本)」が使われています。
自賠責保険への被害者請求
年金のみの受給者で、ご夫婦2人暮らしで、既往病と事故による受傷に因果関係がない場合には、損害賠償額のほとんどが自賠責保険への被害者請求にて損害の全額が回復される場合が多いのも特徴です。
また、後遺障害の等級認定においても、高齢による事が判断基準ではありませんので、後遺障害等級認定をされて、等級が認定された場合に、被害者請求として自賠責保険へ後遺障害の慰謝料等を請求することができます。


